闇と夜

ゆらり、と闇に金糸が溶ける。
ゆらりゆらりと路地裏を歩む風に、無機質なコンクリートには似つかわしくない金をなびかせながら、男…アディクターは約束の場所へと向かう。
その手には鈍く重く光るナイフが握られており、そしてどうやらそのナイフ1本だけではないようで、彼の懐からはカチャカチャと金属質な音が小さく響いていた。
いつもの癖で手の内のナイフをくるくると回しながら、彼は少し愉しげに唇を緩める。否、これからの愉しみの為に唇を緩めた、という方が正しいだろうか。
「…今日はどっちが先かねぇ」
1人唇から声をこぼしながら月を見上げ、そして再び降ろした視線の先。
ビルの隙間、夜月に照らされたその場所に、白い光を浴びる壁面へ暗く影を落とす人影が見えた。
「…アディクター」
抑揚のない声音で呼ばれたその名前は、しかしアディクターにとっては誰に呼ばれるより1番耳に心地よい。
「あーあ…先越された、残念」
その人影へ全く残念そうではない返事をし、鮮やかな緑の髪を揺らす彼、照夜へと近づいた。
「遅かったね」
「んー…いつもの所から出ようとしたら電源付いてなかったみたいでさぁ、仕方ねぇからちょっと回り道してきたんだわ」
何事も無いかのように照夜の頬へと軽くキスを落として彼の隣へと寄りかかる。
「今日どーする?」
視界の端で揺れる髪を指先で弄びながらアディクターが問うた。
どうしようか、と返事をしながらも、照夜のモップを握る指先には緩く力が篭る。
…どうやら、既に彼の中では今日の予定は決まっているようだ。
「…じゃあ、今日は遊びに行こうよ」
ゆるゆると髪を弄っていたアディクターの手を取りつつ照夜は笑う。
「今日は、じゃなくていつもだろ?」
「…言えてる」
「たまには俺の所にも遊び来いよ」
「考えておくよ」
くすくすと笑い合いながら指を絡め、唇を重ね、そしてすぐに2人の影はまた離れた。
互いに自らの得物を握り直しながら、共にゆらりゆらり、とビルの合間の闇へと歩み出す。


さあ、楽しい夜を始めようか。

  • 最終更新:2016-05-26 12:30:48

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